第124回
夢中は素敵 オトノハコ
 なににも熱くならない青春時代っちゅうのもそれはそれでクール極まれりでカッコヨシだが、やはり何かに夢中になった青春時代っちゅうのは素敵。しかもそこに自分自身を見つめることで生まれる悩みや淡い恋心が付随すりゃもっと素敵! 劇的なことなんかなくていいのだ。夢中になれるモノさえあれば青春っちゅうのは素敵なのだ(傍目から見ればな。やってる本人はわけわからん衝動に突き動かされて苦しいだけかもしれんが)。
 
 ちゅーわけで今回紹介するのは岩岡ヒサエ『オトノハコ』だッ!
 早朝に学校に来てしまった高校一年生の田辺みきは、どこからか聞こえてくるピアノの音と歌声を聞く。それは部員が少なくて廃部寸前な合唱部の歌だった。
 というわけで合唱部を舞台にした、努力と友情と淡い恋の柔らかで優しい物語だッ!
 いや〜、この雰囲気、マジで素敵ですわい! 
 どう素敵って、それは劇的じゃないところ! 
 合唱が上手になるために努力する、友達の言葉に救われたりする、恋は切なかったりする。だけど、どれも過剰には表現されず、抑えられた調子で進むのだ。こう書いちゃうとなんかつまらない作品のように思えちゃうかもしれないけどそうじゃない! 勘違いすんな、オラッ! 劇的に表現するのは、メッセージなどを確実に読者に伝えるためだ。小さな声より、大きな声の方が遠くまで確実に届くのと一緒だ。
 だが、本作は小さな声でもハッキリと遠くまで届くように描かれているのだ。
 合唱が楽しいと思う瞬間の気持ち、挫けそうになる時の不安な気持ち。そういったものがキャラクターの些細な動作からビンビンに伝わるのである。
 これができるのは、キャラクターをしっかりと描けているからなのだと思う。
 小さな声でも遠くまで届くだけの個性と、現実にありそうな人間の普遍的な行動の両方が、ちゃんと表現されているからなのだ。
 それがあるからこそ、柔らかで優しいストーリーに読者を納得させるだけの説得力が生まれるのだ。
 岩岡ヒサエにはこういう路線の作品をもっともっと描いて欲しいと思います。
 岩岡ヒサエよ、もっともっと描け!