第75回
夏になる前に読んでおけ「マーバケーションEP」
 ファックとシット! マザーとファッカー! キスとアナル! ビッチとソープ! オカマといい声! 地球と愛! 
 …などのように二つそろわないとしっくりこないものがある! そういったものの中から、物語で重要な要素を選ぶとすれば、なんといっても出会いと別れ!
 出会い! そして、別れ! 
 もうこの字面だけで泣きそうになってしまう。全米ちゃんなら号泣は確実!
 そこに「夏の」とついたらどうだ?
 夏の出会いと別れ!
 完全に殺す気としか思えないパワーッ! 改心前のスクルージ(クリスマス・キャロル)だろうと号泣は必死!

 …というわけで夏も地道に近づいてきたので、夏になる前に読んどけな今回の一冊は、
古川日出男「サマーバケーションEP」だッ!
 ストーリーは、他人の顔を見分けられない障害を持つ主人公が、そこで出会った休暇中の若いサラリーマンと一緒に、井の頭公園にある神田川の源流から海を目指して歩く、という冒険をすことになって……というものだ。
 主人公はいろいろな個性的な人々と出会い、そして別れながら川に沿って歩き続ける。この出会いと別れが素晴らしいのだ。感傷的ではなく、さりげない別れが続くんだけど、だからといってクールではない。濡れちゃいないが乾いちゃいない、という絶妙な距離感が読んでいてひどく心地いい!
 主人公と一緒に歩いた短い時間を印象的で幸福な思い出として持ちながら消えていく雰囲気が素敵! 人間はこういう風に出会って、こういう風に別れてぇもんだぜ!
 そういった部分だけでなく、主人公のキャラクター設定がまた素晴らしい!
 顔を覚えられないという障害を持つため、体温や体臭や声質で個人を認識する主人公が感じる東京の風景がマジ素晴らしい! 
 目だけでは見えな物が、鮮やかに浮かび上がるのだ。
 同じ風景が違う風景に見える雰囲気が新鮮だぜッ!
 だんだんと海が近づいてくる場面の目標が達成される嬉しさと冒険が終わる悲しさにも、たまら感動があります!
 とにかく夏になる前に読んどけ!
 そして、川に沿って海をめざせ!