第67回
岩岡ヒサエの方向転換
 岩岡ヒサエの個性はまず絵にある。キャラクターの丸さと目の離れっぷりは強烈な印象を読者に残すだろう。目と目の間がもうちょっと離れたらとんでもないなってしまいそうなあのバランス感覚は凄いとしかいいようがない!
 そしてもう一つの特徴は、なんともいえない浮遊感だ。
 日常の延長にありそうな非日常とでもいったらいいのか、とにかくそういったちょっと不思議な話を描いてきた漫画家である。

 そんな岩岡ヒサエの初長編作品『土星マンション』はなんと、結構ハードな雰囲気のSFだった! 
 地球全部が保護地区となった遠い未来の世界。人類は地上から3500m離れた場所に作った土星の輪のようなリング状の建造物で生活をしていた。主人公の少年はその建造物の外側から窓を拭く危険な仕事をすることになって……というストーリー。
 今までの作品は幻想的で魅力的だったが、あえて悪くいうとどこか雰囲気でごまかしていた部分があったと思うのだ。不思議でしょ、という雰囲気で話をやや強引に進めちゃったり、テーマ性を無理矢理出しちゃっている所があったと思うのだ。いや、それが魅力の一つになっていたとは思うんだけどね。
 しかし本作では、人間関係や世界観が物凄く練り込まれているのだ。
 そしてそれがとってもおもしろい! 
 今まで描いてきた日常のエピソードを表現する筆力が、壮大な世界観の中で生きており、物語に深いリアリティを与えているのだ。時代がたっても変わらないだろう人間の感情がヒシヒシと伝わってくる。
 そしてなくといっても浮遊感がないのだ! キャラクター達もストーリーもがしっかりと地に足がついている。生身の世界が広がっているのである。
 そして連載中の『オトノハコ』は高校の合唱部の日常を描いた作品だが、これまた不思議な出来事は起こらず、個性的な部員達の日常が描かれている。みな浮かばずに地に立っている雰囲気だ。
 僕は岩岡ヒサエのこの方向転換は熱烈に支持したいと思います!
 なんというか、あの不思議な雰囲気の下地があるせいか、地に足のついた作品にも不思議な魅力が出ていると思うんですよ。なんと表現したらいいのか今の僕にはまだよくわからないんだけど、この魅力は岩岡ヒサエにしか出せないもんなんじゃないだろうか?
 とにかくみんなもっと岩岡ヒサエに注目せよっ!