第36回
物語 大江戸牢屋敷 黒き好奇心を刺激しろ

 悲惨な状況に心引かれる! って別に悲惨な状況を体験してぇわけじゃなく、そういった内容の本を読むのが好き、ということだ。そんな煮えたぎる僕の黒き好奇心を超絶に満足させてくれたのが中嶋繁雄『物語 大江戸牢屋敷』だ。
 さまざまな文献を元に、江戸時代の牢屋敷がどんな暗黒ワールドだったのか嫌というほど教えてくれる一冊だ。あまりにも壮絶な内容に、吐き気を催すほどゲンナリしたぜ! 幕末時代の牢屋敷だけには絶対に入りたくない! そうしみじみと思った。
 池波正太郎の『鬼平犯科帳』で知られる長谷川平蔵が、娑婆に出た犯罪者が再び犯罪を犯さないように職業訓練センターのような施設を作っていた話など、ちょっといいエピソードもあるのだが、基本的には壮絶で陰湿な暴力話が中心となっている。
 その中でも特に衝撃的な「岡っ引きへの復讐」という項目を紹介しよう。
 岡っ引きとは役人の手下となって犯罪者をとらえていた人達のことである。どういう罪を犯したのか、その岡っ引きが牢屋敷に入れられることになったのだ。
 牢の中にいる奴らは全員、犯罪者。つまり無条件で岡っ引きを憎んでいる奴らでいっぱいである。
 当然、牢内では凄惨なリンチが始まる。
 まず、お椀に糞小便を入れて無理矢理食べさせる。
 それからしっかりと押さえ込んで、板の尖った角で太股を叩きまくる。岡っ引きがあげる悲鳴は、牢屋の中の人々が声を張りあげることで外に漏れないようにする。
 三日ほど板で殴ったあと、腹這いにさせて顔に濡れ雑巾をあがってから陰嚢を蹴り潰して殺す。それで死なない場合は頭か、背中の急所を力任せに殴る。
 ……最悪である。マジで最悪である。
 牢の中で犯罪者が犯罪者を勝手に殺しちゃってもいいのかよ! という疑問が当然わいてくるだろう。無論、本当はダメである。だけど死亡を確認しにきた医者に金を払って自然死ということにしてもらうことでOKにしてしまうのだ。
 金って、金はどこから手に入れるんだよ! という疑問もあろう。
 新しく入牢する犯罪者が、入牢前に口に入れてケツから出すことで持ち込むのである。こうやって金を持ち込まないと、先に書いたような壮絶なリンチを受けることもあるので、みんな持ち込んでいたそうだ。
 幕末で世相が混乱すると犯罪者が増え、牢屋敷は一畳に犯罪者十八人を押し込むという超過密になったという。
 一畳に十八人! 
 ありえないにもほどがある人数だが、手足をうまいこと重ねりゃ入るらしいのである、十八人も。雑伎団だよ、それ! 雑伎団の芸が日常になってるよ!
 しかし、さすがに狭いので、別に恨みもない奴の首をしめ、陰嚢を蹴り潰し、板で殴って、ぶっ殺して場所を作ることになるのだという。……場所のためだけに人を殺すって……おっかねぇ! 人間ってとことん残酷になれるんだなぁ。
 読んでいて気づいたのだが、太股を叩く、陰嚢を蹴る、板で殴る、この三つが牢屋敷内ではメジャーな暴力だったようだ。最近、テレビでアメリカ兵によるアフガニスタン捕虜へのリンチについての放送されていたのを見たのだが、そこでも太股を叩くというリンチがメジャーだったようだ。そういや高校の頃、野球部内で上級生が下級生の太股を膝で蹴る、という制裁がおこなわれていた、なんて話をきいたことがある。
 リンチといえば古今東西を問わず太股への打撃なのかもしれん。
 そんな気づかなくていいことに気づいた。
 んな、余談はともかくとして、他にもいろいろ壮絶なエピソードがてんこもりなので、黒い好奇心を刺激された人は是非!